関東信越税理士会 竜ヶ崎支部所属 |
医薬品の販売や薬膳料理の提供、在宅医療などを通じて地域住民の健康をサポートしている、あけぼのファーマシーグループ。業界の慣習にとらわれない、斬新なサービスを展開する背景には、原田伸宏税理士と二人三脚で築き上げた緻密な業績管理体制があった。
冷たい雨がしとしとと降り注ぐ晩春のある日。あけぼの薬局学園の森店(茨城県つくば市)の会議室に木村雅彦社長、原田伸宏顧問税理士、茨城県信用組合岩井支店の萩原昭支店長と小林正治係長が参集していた。あけぼのファーマシーグループの子会社である、サンメディカルの業績検討会だ。
全員がモニターに投影された《365日変動損益計算書》を見つめるなか、原田税理士がデータをつぶさに読み上げていく。
「現時点の売上高は○万円で前年比、予算比ともにプラスで推移しています。次に限界利益率ですが、こちらは〇%と前年比で〇ポイント改善しました。今回、2年に1度の調剤報酬改定や毎年の薬価の引き下げが実行されましたが、これらはサンメディカルの経営にどのような影響を及ぼしていますか」
こう尋ねられた木村社長は、真剣な面持ちで原田税理士の問いかけに応じる。
「売上高の減少や限界利益率の悪化など、マイナスの影響が予想されたので、薬の仕入れ方法や卸売業者との交渉など、対策を素早く打ちました。これが奏功したのか、業績への影響は軽微にとどまりました。しかし、今回の調剤報酬の改定は経営的に影響が大きく、今後、限界利益率が悪化することが予想されます」
木村社長の説明を受けて、小林氏が「業績をタイムリーに管理され、その上でその後の経営戦略を練られていることが、今の状態につながっていると思います」と述べると、続けて萩原支店長が「『TKCモニタリング情報サービス』(MIS)で決算書と月次試算表を提供していただいているので、サンメディカルさんの状況が手に取るように分かり、当組合としても会社の実態に合った支援を実施できていると感じます」と情報開示の透明性について言及した。
その後、原田税理士が店舗別の会計データをもとに同社の現状を詳細に解説。最後に木村社長が「当社は『薬局の概念を覆せ』をスローガンに、地域に根差した会社を目指して努力していきます。引き続き、力強いサポートをお願いします」と総括し、散会となった。
このように、同グループでは、原田公認会計士・税理士事務所による支援のもと、TKC方式の自計化と月次決算を実践している。
なぜこれほどまでに業績管理を緻密に行うようになったのか。その理由を説明する前に、まずは創業の経緯について見ていこう。
木村雅彦社長
あけぼのファーマシーグループ
業 種 医薬品販売、薬膳料理店の運営など
創 業 1996年4月
所在地 茨城県常総市古間木新田811-2
売上高 29億1000万円(グループ全体)
社員数 106名(グループ全体)
会計システム FX4クラウド
茨城県内の病院で薬剤師として勤めていた木村社長が独立し、常総市内にあけぼの薬局の1号店を開局したのは1996年4月のこと。一念発起して独立に踏み切ったのは「患者さんの健康をサポートし続けたい」(木村社長)という強い思いから。病院に勤めている以上、患者をケアできるのは入院中に限られる。木村社長は積極的に病棟に出向き、患者1人ひとりとコミュニケーションを図りながら服薬管理、服薬指導を行っていたことから、次第に「退院後もきちんと薬を飲めているか、副作用は出ていないかを継続的に確かめたい」との感情が沸き上がったという。
この思いはビジネスモデルにも反映されている。あけぼの薬局では、薬剤師が調剤した薬を患者の自宅に届けて、服薬管理や指導を行うサービスを創業時から展開。
今でこそ在宅患者への服薬管理を手がける薬局は多いものの、当時は全国的に見ても少なく、あけぼの薬局がその先駆けだった。
「今は在宅の患者さんに調剤および服薬管理を行った場合、訪問薬剤管理指導料の点数が取れるのですが、昔は加算されず報酬は従来の調剤料だけでした。もちろん、採算は取れていませんでしたが、このサービスを止めることなく磨き続けたのは、地域の患者さんのサポートをしたいという思いに尽きます」(木村社長)
患者の自宅を訪ねての服薬管理は地域住民や医師に好評を博し、顧客数が増加。99年に2店舗目を下妻市内にオープンし、翌年には同市に3店舗目を開店するなど、着実に規模を拡大していった。現在は茨城県内に薬局を9店舗構えるほか、薬膳料理店(森の薬膳 CoCo Tea)やアロマショップ(生活の木パートナーショップ イーアスつくば店)など、顧客の健康をサポートする事業を幅広く展開している。
木村社長は言う。
「当グループにはサンメディカルのほか、メディカルサポート、AtoZ、ジェントルファーマシーの四つの子会社があり、それぞれ薬局の運営を行っています。われわれの強みは薬の販売はもちろん、薬膳料理やアロマグッズの提供等お客さまの健康をサポートする事業、在宅訪問服薬管理、終末期の患者さんに寄り添った医療サービスなど、薬局の概念にとらわれないサービスを広く提供しているところにあります」
原田伸宏税理士
あけぼの薬局は茨城県内に9店舗構える
左から茨城県信用組合岩井支店の小林正治氏、萩原昭支店長、木村社長、原田税理士、林清登巡回監査士、伊藤真梨巡回監査士
このように順調なペースで事業のすそ野を広げてきた木村社長だが、課題も抱えていた。店舗数が増え、会社の規模が大きくなる一方、グループ全体の業績を綿密に管理できていなかったのである。また、月次決算を組んでおらず、各社・各店舗の業績をタイムリーに知るすべもなかった。
転機となったのは2018年4月。きっかけは、常総市内にある野尻薬局が同グループの傘下に入ったことだった。
木村社長は言う。
「野尻薬局の税務顧問を務めていたのが原田先生でした。M&Aに際して、野尻薬局の経理体制や、原田会計さんの経営支援策について説明を受けたときに、『業績をこれほどまでに細かく把握しているのか』と驚きました。業績は本決算の直前に明らかになるものと思っていましたから……。原田先生の話を聞いて、『既存の店舗についても業績管理の仕組みを変えなければならない』と痛感し、原田会計さんにグループ全体の経営を見てもらうよう依頼したのです」
木村社長は原田税理士の勧めで、子会社すべてにTKCの自計化システムを導入。さらに、原田会計による毎月の巡回監査や月次決算を通じて、子会社4社とあけぼのファーマシーグループ全体の業績データを、正確かつタイムリーに把握できるようになった。
緻密な業績管理体制の構築を支援した原田税理士はこう語る。
「自社の立ち位置を知り、適時的確な経営判断を下すには、業績をこまめに確認する必要があります。業績データをタイムリーに把握するための仕組みを整備し、経営者の迅速かつ的確な意思決定を後押しする。ここに会計事務所の役割があるのです」
現在は、林清登巡回監査士と、伊藤真梨巡回監査士が各社の監査を担当。冒頭の業績検討会の直前も監査が行われており、監査後は木村社長を交えて最新業績の報告、各科目の増減とその要因について情報交換が行われた。
森の薬膳CoCoTeaでは多岐にわたる薬膳料理を提供している
子会社とグループ全体の業績をタイムリーに確認できるようになり、意思決定の精度が飛躍的に向上したと木村社長は言う。
22年にオープンした薬膳料理店も、最新の業績と将来の予測を踏まえて出店を決断した。最近は設備投資や賃上げ等の判断材料として業績データを活用している。
「設備投資や賃上げはある程度の利益が出ていないと進めることはできません。現時点で限界利益や経常利益がどれだけ出ているのか、今後どれくらい伸びそうかをシミュレーションしつつ、原田先生や林さん、伊藤さんのアドバイスを取り入れながら、最終的な判断を下しています」
在宅医療や薬膳料理店、アロマショップの展開など、薬局としては珍しい斬新なサービスを矢継ぎ早に展開し、地域住民の健康をサポートしてきた木村社長。今後も持ち前のバイタリティーと緻密な業績管理を武器に、業界の常識にとらわれない、画期的なビジネスを打ち出していくことだろう。
(取材協力・原田公認会計士・税理士事務所)